八王子盲学校の教育

 八王子盲学校の平成28年度の研究の大きな柱として、「人権教育」があります。これは平成27・28年度の人権尊重教育推進校指定に基づく研究で、「自分と他者を大切にする心の育成を目指して〜人との関わりの中でお互いに認め合い、思いやる授業」をテーマに取り組んできました。
 学校全体では地域校との交流による啓発活動、人権標語の募集、人権通信の発行などを行い、各学部ではそれぞれ授業研究の取組を行いました。これらの活動を通して、幼児・児童・生徒一人一人が自らの命の大切さを知り、教員の側も人権教育の視点に立ち、深く考えた授業実践を行うことができるようになりました。
 11月2日(火)には研究発表会が催され、多くの参加者に来校いただきました。国立民族学博物館准教授 広瀬浩二郎氏をお招きして『無視覚流の極意〜触角(※ツノの字)力でアタマ・カラダ・ココロを鍛える〜』と題する講演をいただき、視覚障害のある側から発信する環境把握の在り方について、新たな知見を得ることができました。

人権教育
(写真)講演する広瀬浩二先生

(講演要旨)
 初めに広瀬先生が掲げたのは、小学館から今年の3月に出版された「学習まんが人物館 ルイ・ブライユ」。その本を、触覚的に楽しむために工夫した話から、講演が始まりました。漫画と点字という組み合わせからのスタートに、聴衆は興味津々。漫画本の表紙に込められた、フランスの三色国旗を意識した触図への熱い思い、博物館を訪れた大人の多くは見ただけで触ろうとしないことにヒントを得て、触らなければ分からない楽しさを追求し始めたこと等を話してくださいました。見ることと触ることの差を実感するために、袋に入れた動物のミニチュアを触ってみる活動も行いました。
 講演の最後に、『平家物語』の那須与一の一節を、琵琶法師の語り(録音)で聴きました。現代に生きる私たちにはもどかしいくらいのゆったりとした語りですが、そのゆるやかな流れが、頭の中で風景を想像し、人物の心情に共感し、臨場感あふれるイメージを膨らませるための必要な時間なのではないか、ということです。このことから、見て分かった気になる時間と、じっくり触って分かる時間の違いを教えていただきました。
 受動的に「見る」ことが増えている現在、盲学校だけではなく社会全体として、能動的に「触る」ことの大切さについて考える機会を与えられた講演でした。

 八王子盲学校では、この研究で得られた成果をもとに、これからも自他を認め大切にする指導を充実させていくとともに、自立したひとりの人間として積極的に社会に貢献できる人を育てていくことができるよう、取り組んでまいります。

平成28年度人権教育研究リーフレット

 本校は、東京都より「日本の伝統・文化理解教育推進」の指定を受け、日本音楽のよさや美しさを味わう心情を育てることを目的に、外部人材を活用し授業を行っています。
 今年度は筝曲演奏家の佐藤順子さんを講師に招き、幼小学部、中学部、高等部普通科の授業で演奏鑑賞と、楽器の触察、演奏体験を行いました。幼・小・中学部の子供たちは、生の箏の音色に聴き入り、「素敵だった」「また聴きたいです」「弦に触って音が出たのがうれしかった」などの感想を話しておりました。また、高等部生徒は「さくら」を練習し、「やっぱり日本の曲はいいなあ」と伝統文化のすばらしさを再認識する機会となりました。

日本の伝統文化
六段の調べに聴き入る琴爪をつけて講師から弾き方の説明を受ける
一の弦から音を確認する

【取組】
 本校は、平成26年度から継続して東京都の「芸術教育推進校」の指導を受けています。学校ごとの取組に合った講師が、東京藝術大学から派遣され、本校美術教師とのコラボレーション授業が展開されます。
【成果】
 様々な展覧会にて広く都民の皆様に見ていただく機会が設けられます。
@東京都特別支援学校総合文化祭:東京芸術劇場(池袋)(H29年1月25日〜30日)
A東京都公立学校美術展覧会:東京都美術館(上野)(H29年2月9日〜14日)
Bアートプロジェクト展:伊藤忠青山アートスクエア(青山)(H29年2月17日〜26日)
【授業の様子】
 本校では中学部2年生と高等部普通科3年生が対象となり、この事業に取り組んでいます。
 電動ろくろを使った造形活動を中心に、自由に粘土で造形遊びを展開させるなど、生徒の制作に対する気持ちの高揚が伝わってきます。
成形だけでなく仕上げも工夫していきます。釉薬を施す以外にも、化粧土を用いてひっかいたり垂らしたりと、思い思いの方法で仕上げをしていきます。

芸術教育

【取組】
 本校は、東京都からオリンピック・パラリンピック教育推進重点校の指定を受け、各学部、各教科を中心に学校全体で取り組んでいます。
国語科→オリ・パラ標語
社会科→異文化理解、国際社会
情報科→オリ・パラアンケート
体育科→パラリンピックの歴史、パラリンピック種目実施
美術科→エンブレム作製
理療科→スポーツトレーナー講話
スポーツクラブ→ゴールボール日本代表選手の実技指導 
オリ・パラ通信発行 オリ・パラ給食 etc
【成果】
〇オリンピック・パラリンピックの意義を学び、意識を高めることができた。
〇中・高等部部活動において一流のスポーツ選手に実技指導をしてもらい、ゴールボール大会での勝利等の結果が得られた。
〇全校として、2020年に向けて意識向上につながった。

オリンピック・パラリンピック教育
ゴールボール男子日本代表 川嶋悠太さんの指導
オリンピアン伊藤友広さん(陸上)の指導

 本校は東京都より言語能力向上拠点校の指定を受け、継続的に取り組んでいます。今年度は図書部を中心に研究及び実践を進めています。11月には「落語を聞く会」と称して、落語家の三遊亭美るくさんにご来校頂き、特別授業を行いました。古典落語のもつ独特の響きやリズム感、美しい語り方などに直接触れる貴重な時間となりました。話のおもしろい部分では、教室中に児童・生徒の笑い声が響きました。日本語がもつ魅力を、違った側面から感じ取れました。
 また、今年度は新たに「校内読書週間」を年間2回設け、全校で読書活動に取り組みました。図書室や教室で読書の機会を多くもちました。お昼の放送で、書籍の紹介を流すことを合わせて行い、読書に向かう姿勢が身に付いてきたように感じられます。今後も、児童・生徒が豊かな言語能力を学習できるよう、授業の改善を図っていきます。

言語能力向上
三遊亭美るくさんのお話
三遊亭美るくさんの高座